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仙台高等裁判所 昭和23年(ナ)2号 判決

原告

山中勝衛

外一名

被告

靑森縣選挙管理委員会

主文

原告等の請求は何れも之を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

請求の趣旨

昭和二十二年八月三十日施行せられた靑森縣南津軽郡大鰐町長選挙を無効とする。若し右選挙が無效でないとすれば、右町長選挙における候補者二川原節郞の当選を無效とする。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

昭和二十二年八月三十日靑森縣南津軽郡大鰐町長選挙が施行せられ、該選挙において原告山中は選挙人であつて、原告佐藤は訴外二川原節郞、笹留男と共に同町長候補として立候補し、その結果、同年九月六日選挙会において候補者二川原節郞の得票数千七百七十一票、原告佐藤の得票数千七百二十六票、笹留男の得票数百三十六票と認め、右二川原を当選人と決定した。原告山中は同月十日大鰐町選挙管理委員会に異議を申立て、同委員会は同月二十七日異議却下の決定をしたので、同年十月三日同原告は更に被告に訴願し、被告は同年十一月二十七日右二川原の得票千七百七十一票のうち七十七票の無効投票があり、原告佐藤の得票千七百二十六票うち八十五票の無効投票があるが得票順位には異動がないとして訴願却下の裁決をし、同年十二月六日之を告示し、同月九日原告山中に告知した。しかしながら右選挙は左の理由により無効である。

(一)右選挙は同町々会議員補欠選挙と同時に行はれたのであるから、地方自治法第三十七條、衆議院議員選挙法第三十四條地方自治法第二十五條第五項により、同時投票録を作成しなければならなかつたのに、右選挙第四投票区の投票管理人山田文次郞は之を作成しなかつた。之は單に同法令違反である許りでなく、之を作成しておけばそれにより同投票が適法に行われたという被告の主張が一應立証されることになるのたがその作成が無かつた爲に被告は他の方法により先づ之を立証せねばならない。もつとも右第四投票所では右選挙が同時に合同して行はれたのに、その投票管理者は大鰐町長選挙投票録と同町々会議員選挙投票録とを別々に作成したが、これ等は(イ)右選挙が別々に行はれたように記載されており(ロ)投票立会人の如きも事実と異つている。その他種々の点において事実と符合せぬから之等を以て本件投票所の投票録と見立てるのは大なる間違である。

(二)被告は右投票所においては、右選挙当日立会人として訴外山田丹十郞、山崎多作、山崎小佐久、幸山淸一の四名が立会つたというのであるが、右山田丹十郞は第四投票区内の選挙権者でなかつたから同投票区の立会人となる資格がなかつたし、幸山淸一は届出立会人でなく又適法に立会人に選任されてもいないし山崎多作は町会議員候補者が届出た投票立会人であるから、町長選挙の側から見れば、投票立会人ではない。而して地方自治法第二十五條第五項の「同時に選挙を行う場合においてはこの法律に特別の定があるものを除く外投票及び開票に関する規定は各選挙に通じてこれを適用する」、とあるのは本件のような同時選挙の場合に、投票立会人の数が町長候補者の届出てたものと、町会議員候補者の届出てたものとを合計して三名あればよいという趣旨ではなく、この場合には各三名宛合計六名を要する趣旨と解すべきである。かく解すると右投票所の投票立会人は法定数を欠き右投票所の選挙は無効である。

(三)右第四投票所には右選挙に無関係な山田丹十郞か同投票管理者山田文次郞の意に反して終始立会つていた。而して(イ)右山田丹十郞は二川原候補の有力な選挙運動員であり、(ロ)右第四投票区である大鰐町大字高野新田部落内に廣大なる山林を所有し、同区内の多数人夫を常に同山林の爲に使用して居り、之等人夫及びその家族の多数が同町長選挙の選挙人であつた。然るに故意か偶然か二川原候補は此の無資格者である山田丹十郞を右第四投票区の投票立会人として届出たのである。丹十郞は投票日の前日に同区内に行つて一泊し、翌朝同投票所に行き、当該投票管理者山田文次郞より無資格の故を以てその立会を拒否せられたのに拘らず之に從はず、強いて投票立会人の席に就き、各選挙人の投票を終日睥睨看視して其の投票に干渉した。二川原候補者側から同町長選挙に関し他投票区からではあるが投票買收の刑事々件が発生したことを考へても、右山田丹十郞が右投票場に居て前述の如く投票に干渉したことは選挙の結果に重大なる影響を與へたものとみなければならない。

(四)仮に右第四投票所に適法なる三名の投票立会人が立会つていたとしても、同人等は中食又は用便のため退座して立会を中止したこともあつた。この間にも選挙人の投票は行はれたのであるから、この間における投票は立会人の全部又は一部欠員の中に行はれたことになる。

(五)右第四投票区の投票所は大鰐町大字居土字高野新田幸山甚吉方に設けられたのであるが、同投票所の投票記載場所は、選挙人の投票記載が、投票係員席からうかがい得る樣に設備された。殊に三箇所の投票記載場所の中の北端の一席は、採光の関係上最も多く利用される場所であつたにかかわらず、投票係員席中、西方の立会人席二箇から直線距離でわずか六尺内外を隔てるのみであり、且つ其の間何等の障壁等も無い爲多くを労せずして記載を窺知し得るのである。右六尺内外の距離と雖も設備の関係上時には更に短縮される場合も考へられるから、右投票所の投票は其の秘密、自由を制縛されて行はれた虞がある。

(六)右投票所の投票管理者山田文次郞は、投票函に鎖鑰を施すに付地方自治法施行令第五十一條第一項、衆議院議員選挙法施行令第二十二條に違反し、又同投票函を所定の開票管理者に送致するについても、地方自治法第三十七條衆議院議員選挙法第三十五條に違反した。即ち同人は投票函に施した鎖鑰の鍵二個中一個を自ら保管し、他の一個を投票立会人に保管せしめた後、一名以上の立会人と共にその投票函を開票管理人に送致せねばならぬのに之を実行しないばかりでなく、他の一個の鍵を山田丹十郞に保管せしめ、且之を送致する時にも一人の投票立会人も同行させずに、終始山田丹十郞と二人のみで行つた。尤も投票所を出るときには役場吏員中島米太郞外一、二名の同行者もあつた樣であるが、中島は途中で自家に帰り、其の他の者は中島よりも早期に別れて居るのである。斯くして山田文次郞は投票所から開票所に至る二里余の田舍道を夜間、山田丹十郞と共に、右投票函を送致し、この二人は途中文次郞の自宅に立寄ることさへ敢えてした。

以上の選挙法違反は、すべて選挙の秘密、自由、公正維持のために直接必要なる法條違反であるから、この違反自体より直ちに選挙の秘密、自由、公正を害する事実があつたと推定せらるべきであり、右第四投票区の選挙は無効とせらるべきである。而して右第四投票区では総投票が百三十三票であつたから、この投票が全部無効であるとすれば、本件選挙は結果に異動を及ぼす虞があることは計算上明かである。

仮りに右選挙無効の主張が理由がないとしても、当選者二川原節郞の当選は左の理由により無効である。即ち、大鰐町選挙管理委員会が二川原候補の有効得票と認めた千七百七十一票中には被告が、訴願に対する裁決で、無効と認めた七十七票の外百六十四票の無効得票があり、無効投票合計二百四十一票(檢乙第一乃至二百四十一号、このうち檢乙第一乃至七十七号は被告の裁決で無効とされたもの)がある。即ち、

(イ)本件選挙の投票用紙は、一枚に町長候補者を記入すべき欄と町会議員の候補者を記入すべき欄と二つの欄があつたが、町会議員の欄に記入したもの四十票、

(ロ)成規の用紙を用いないもの二票、

(ハ)用紙の裏面に記載したもの一票、

(ニ)用紙を逆にして「ニカワラ」と記載したもの一票、

(ホ)他事記入のもの六十六票、

(ヘ)何人を記載したかを確認し難いもの百三十票、

その他一票以上合計二百四十一票の無効投票があつた。

又、大鰐町選挙管理委員会において、原告佐藤の有効得票と認めた千七百二十六票の中には、無効と認むべきものは五十四票であつて、被告が前記裁決で無効と判断した八十五票のうち、無効と認めるべき五十四票を除いた殘り三十一票は有効のものである。

即ち、被告は、

(一)町長候補者欄に「サト」と記載し、町会議員候補者欄に「〇」と記載したもの、七票(檢甲七十四乃至七十九号、第八十一号)、

(二)町長候補者に「サド」と記載し、町会議員候補者欄に「十」と記載したもの、四票(檢甲第五十五乃至五十七号、第八十号)、

(三)町長候補者欄に「佐藤勝永」と記載し、町会議員候補者欄に「 」と記載したもの、十四票(檢甲第六十乃至七十三号)、

(四)町長候補者欄に「サトウ」記載し、町会議員候補者欄に「ナシ」と記載したもの、二票(檢甲第五十八号、第五十九号)、

(五)町長候補者欄に「佐藤勝永」と記載し、町会議員候補者欄に「希望者ナシ」と記載したもの、一票(檢甲第八十五号)、

(六)町長候補者欄に「佐藤勝永」と記載し、町会議員候補者欄に「關白秀吉公」と記載したもの、一票(檢甲第八十七号)、

(七)町長候補者欄に「佐藤勝永」と記載し、町会議員候補者欄に「私ハワカリマセン」と記載したもの、一票(檢甲第八十三号)、

(八)町長候補者欄に「佐藤勝永」と記載し、町会議員候補者欄に「お前等の樣な馬鹿に何が出來る」と記載したもの、一票(檢甲第八十二号)、

以上三十一票を全部他事記入として無効としたのであるか、同時選挙の場合の投票用紙に町長候補者の欄と町会議員候補者の欄とがあるときには、他事記入であるかどうかはその一つの欄についてのみ考へるべきで、他の欄の記載は地方自治法第四十一條第一項第二号の判定につき考慮に入れるべきではなく、前記投票はすべて有効として原告の得票中に算入すべきである。さうすると、二川原候補の得票は、千七百七十一票から前記無効投票二百四十一票を控除し、千五百三十票となり、原告佐藤の得票は、千七百二十六票から前記無効投票五十四票を控除し、千六百七十二票となるから、原告の有効得票か多数となり、二川原候補はその当選を失うべきである。よつて本訴請求に及ぶと述べ、

立証として、甲第一、二号証、第三、四号の各一、二、第五号証を提出し、証人山崎多作、山崎小佐久、中島米太郞、幸山甚佐久、山田恒太郞、山内要作、西村久治郞、宮元市太郞、山田文次郞、山田丹十郞の各証言、本件選挙の投票の檢証及び本件選挙における第四投票所であつた大鰐町大字高野新田幸山甚吉方、及び同所から同町大字大鰐地の選挙開票所に至る通路の檢証の各結果を援用し、乙第一号証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、昭和二十二年八月三十日大鰐町長選挙が施行せられ、該選挙において、原告山中が選挙人であり、原告佐藤が訴外二川原節郞、笹留男と共に立候補し、その結果、同年九月六日選挙会で右各候補者の得票数が原告主張の通りであるとして、二川原節郞を当選と決定し、同月十日原告山中が同町選挙管理委員会に異議を申立て、爾後原告等主張の経過により被告が同原告の訴願却下の裁決を爲し、同年十二月六日之を告示し、同月九日同原告に告知したことは何れも之を認める。

(一)右町長選挙が同町々会議員補欠選挙と同時に行われたこと、かような同時選挙の場合においては、投票録一通を作成すれば足りるのであるのに、第四投票所における投票については町長選挙投票録と町会議員補欠選挙投票録とか各別に作成されたことは爭わないか、これは昨年各種選挙を執行した場合各選挙毎に投票録を作成したので、係員が、事務不馴れのため、前例にならつて作成したものであつて、実質的には何等の影響がないので、このために選挙の公正を害したものとは認められない。

(二)原告は、右第四投票所においては投票立会人が法定数を欠いたというけれども、同時選挙においては、地方自治法第二十五條第五項に投票及び開票に関する規定は、各選挙を通して之を適用すると規定されてあり、同法第三十條に規定する投票立会人の数も、またこれによつて該選挙を通して計算されることに改正されたものであつて、該選挙においては、立会人として出席したもの四名であつたが、右の中選挙期日前三日迄に届出のあつた投票立会人は、同町長選挙の立会人として山崎小佐久、同町会議員選挙の立会人として山崎多作及び同選挙第四投票区管理者において選任した幸山淸一の三名が投票当日成規の投票立会人として参会しているのであつて、投票立会人が法定数を欠いたことはない。

(三)訴外山田丹十郞が右第四投票所の投票立会人として、投票当日、右投票所の投票に立会りたことは認めるが、同人は同町長選挙の候補者二川原節郞から第四投票所の投票立会人として届出があつたのであるけれども、同町選挙管理委負会から、同人は第四投票区のの有権者でないとの理由で受理されなかつたのに、これを事前に右山田に連絡しなかつたため、選挙当日同人は、先の届出が受理されているものと信じて、投票所に参会したのが眞相である、同人はもともと第四投票区の有権者でないから、投票立会人となることができないもの であることは原告主張の通りであるが、同人を除いてもなお投票立会人の数が法定の最少限度三名を充足しているのみでなく選挙の規定に違反した事実はない。

原告は右四投票区の投票か、「山田丹十郞の干渉裡に」行はれた、それは山田丹十郞は「訴外二川原節郞の有力な選挙運動員」であること、第四投票区内に廣大な山林を有し「同区選挙人と密接な関係にあり」、然も「投票を終日睥睨看視」したから、投票の自由公正、秘密が侵犯されたかの如く主張しているが、これがため選挙人の自由意思が妨げられ、その意にあらざる者を選挙し、又は公正を害し、若くは投票の秘密を侵犯されたとは断言さたるべきものではない。なぜなれば、そもそも各種選挙における投票立会人としては、原則として候補者に最も縁故の深い者が選ばれることは通常の事例であるのみならず、選挙法令には、選挙運動員は勿論のこと、候補者自ら立会人となることも禁止していないのである。何人か立会人であらうとも、選挙人は自已の意思に基く候補者の氏名を記載することに他からその秘密を侵犯されることがないように、相当設備をなしている投票記載所において、自己の自由意思によつて候補者の氏名を記載するものである以上、原告主張のような投票の自由公正、秘密が侵犯されることはあり得べきものではない。

(四)右山田丹十郞が投票函送致立会人として投票管理者山田文次郞及び係員等と共に投票函を送致したことは爭はない、しかし同投票所から選挙会場迄、該投票函を送致する途中において、何等の事故もなく、投票函及び関係書類を、選挙係員の点檢を受けて、選挙長西村久次郞に引渡しているものであるから、たとい同人が投票函と同行したとしても、明かに選挙の公正を害した事実がない限り、該選挙は無効と認むべきでない。

(五)しかのみならず、たとえ一部選挙の規定に違反している事実があつても、その効力に影響を及ぼすものでない以上右選挙を無効とすべきではない。

原告は又二川原候補の得票中に多数の無効投票があると主張するけれども、右選挙の選挙会において決定した当選者二川原の得票千七百七十一票中に、無効投票と認めるもの七十七票があるから、これを控除すれば、その有効得票は千六百九十四票となり、又同原告佐藤の得票千七百二十六票中にもた無効投票と認めるもの八十五票があるから、これを控除すれば、その得票は千六百四十二票となるので、二川原の得票は原告佐藤の得票より五十三票多数となり、得票数の順位に変更がないから、二川原は当選を失はないと術べ、

立証として、乙第一号証を提出し、証人西村久治郞、宮元市太郞、山田文次郞、山田丹十郞、幸山淸一、嘉瀨尚秀、澤田新太郞、小山内多平、山口八郞の各証言、本件選挙の投票の檢証及び本件選挙における第四投票所であつた大崎町大字高鰐新田幸山甚吉及び同所から同町大字大鰐地の選挙開票所に至る通路の檢証の各結果を援用し、甲各号証の成立を認めた。

理由

昭和二十二年八月三十日靑森縣南津軽郡大鰐町長選挙が施行され、該選挙において、原告山中が選挙人であつたこと、訴外二川原節郞、笹留男、原告佐藤の三名が立候補し、その結果、同年九月六日選挙会において候補者二川原の得票数千七百七十一票、原告佐藤の得票数千七百二十六票、笹留男の得票数百三十六票と認め、右二川原を当選人と決定し、原告山中が、同月十日同町選挙管理委員会に異議を申立て、同委員会は、同月二十七日異議却下の決定し、原告山中が同年十月三日更に被告に訴願し、被告が同年十一月二十七日右訴願却下の裁決を爲し、同年十二月六日之を告示し、同月九日原告山中に告知したことは、本件当事者間に爭がない。

(イ)右選挙が同町会議員補欠選挙と同時に行はれたこと、同選挙第四投票所においては右選挙が同時選挙であつたのに拘らず、町長選挙と町会議員選挙につき別々に投票録を作成した、ことは、何れも当事者間に爭がない。しかしながら、選挙が適法に行はれたかどうかは、專ら当該選挙の現実によつて判断せられるべきことからであるから、右投票録の作成又は記載に不備、脱漏その他の違法があつたとしても、このために、適法に行はれた選挙の効力に影響を及ぼすものではない。

(ロ)又、投票所における方式に関する規定の遵守又はその行はれた手続自体は、民事又は刑事の訴訟手続の口頭弁論又は公判手続について定められた、民事訴訟法第百四十七條、刑事訴訟法第六十四條のような特別規定のない限り、投票録の記載につてのみこれを証することができるものと解すべきでない。たとえ投票録の作成に不完全な点があてつも、之と他の証拠と相俟つて右投票所の投票が適法に行はれたか否かを判断し得ること勿論であるし、又右、のかような投票録を事実認定の資料とすることも別段法律の禁ずるところでもなく、條理上からいつても不都合があるとは考へられない。

(ハ)成立に爭ない甲第一、二号証、第三、四号証の各一、二、証人山崎多作、山崎小作久、中島米太郞、山田文次郞、幸山淸一等の各証言によれば、右選挙当日第四投票所には、投票立会人として、昭和二十二年九月二十七日町会議員候補者廣島粕太郞から届出のあつた、投票立会人山崎多作、町長候補者だつた原告佐藤が、同日届出た投票立会人山崎小佐久の外、二川原候補から投票立会人として届出た山田丹十郞が、右第四投票所の区域内に住居をもたないためにその資格がなく、投票立会人三人の法定数を欠くため、右投票所の投票管理者山田文次郞が選任した投票立会人幸山淸一、以上合計三名が午前七時から午後六時迄の定時間中出席して投票に立会つたことが明かである。

原告等は右立会人山崎多作は町会議員候補者から届出た立会人であるから町長選挙の側から見れば投票立会人ではない。地方自治法第二十五條第五項の規定は、同時選挙の場合、同法第三十條の規定する投票立会人三名の数は、各選挙毎に夫々三名づつを必要とする趣旨と解すべきであるから、右投票区は、町長選挙の側から見れば、町会議員候補者から届出た投票立会人山崎多作を除けば、二名となり、法定数を欠くと主張するけれども、地方自治法第二十五條第五項の規定は、右の場合、投票立会人三名は各選挙を通じ、即ち、各選挙の候補者から届出のあつた投票立会人全部を通じ、総計して三名にて足る趣旨と解すべきであつて、右原告の主張は独自の見解に基く独断であるから之を採用することができない。而してかく解するときは、右投票所における選挙当日の投票立会人は三名あつたと認められることは前説明の通りであるからこの点につき何等の違法がない。

尤も証人山崎多作、山崎小佐久、中島米太郞、山田文次郞(同人の証言中下記認定に異る部分を除く、この部分は信用しない)の各証言によれば、右立会人三名は正午頃約三十分間交替で晝食のため自宅に帰つたが、この間全然立会人が居なくなつたこともないし、少くともその他にも投票管理人山田文次郞、同選挙場の投票記録係中島米太郞等は同所で晝食をも爲し終始立去らなかつたし、又右晝食の時には格別投票者も來場しなかつたことが認められる。しかも地方自治法第三十條第十項の投票立会人が三人に達しないとき、若しくは三人に達しなくたつたとき、又は投票立会人で参会するものが投票所を開くべき時刻になつても三人に達しないとき、若くはその後三人に達しなくたつたときというのは投票立会人中、発病其の他の事故により、引続き立会をすることができず、若くは立会をしないものがある場合をいうのであつて、生理上欠くことのできない排便又は晝食のため僅かの時間内一時其の席を退去する場合をいうのでないから、仮に前認定の樣に投票立会人が晝食のため交互にその席を退去したからといつて投票立会人が法定数を欠いたと非難すべきではない、

(ニ)右第四投票所に訴外山田丹十郞が選挙当日投票立会人として右投票所に臨席していたこと、

(ホ)同人が投票函送致立会人として投票管理者山田文次郞及び係員等と共に投票函を送致したこと、

右山田か右投票所の区域に住所をもたないために同投票所では選挙権がなく投票立会人となる資格がなかつたことは当事者間に爭がないから、右山田が右投票の日に右投票所に臨席したことは結局地方自治法第三十七條衆議院議員選挙法第四十一條に違背することになるし、又、靑森縣南津軽郡大鰐町大字居土字高野新田幸山甚吉方の右投票所から同選挙の開票所であつた同町大字大鰐小學校に至る通路の檢証の結果、証人山崎多作、山崎小佐久、山田文次郞(以上三人の証言中下記認定に反する部分を除く、同部分は信用しない)、西村久治郞、中島米太郞、山田丹十郞、山田文次郞の各証言を綜合すると、右投票所の投票終了後投票記録中島米太郞と受附係貴田吉〓とか投票函に施錠し、立会人等が封印した後、二個の錠を前記投票管理人山田文次郞が持ち、右中島が投票函を背負い、自轉車に乗つた二名の警察官の外山田文次郞、山田丹十郞、貴田吉〓及び投票所整理係であつた戸崎大治等が附添い、右投票所を出発して開票所へ向い、約三十分後居土観音橋の所で、中島と戸崎とは帰宅し、貴田は足を痛めて後れ、同所からは、山田丹十郞が投票函を背負い山田文次郞が附添い、途中宿川原の橋で山田丹十郞に代つて山田文次郞が右投票函を背負い、山田丹十郞が附添い、右居土觀音橋より約一時間で大鰐小學校の開票所に到着したが、警察官は途中から一人は去り、一人丈が最後まで附添つていたことが認められ、投票立会人は終始一名も附添はなかつたことが認められるから、右は地方自治法第三十七條、衆議院議員選挙法第三十五條及び地方自治法施行令第五十一條第一項、衆議院議員選挙法施行令第二十二條に違背したことか明かである。

而しながら、証人西村久治、宮元市太郞、山田恒太郞、山田文次郞、山田丹十郞の各証言によれば、右山田丹十郞が前記第四投票所に臨席するに至つた事情は、山田丹十郞は、昭和二十二年八月二十八、九日頃二川原候補の選挙事務所であつた大鰐町澤田新太郞方で訴外玉川某に第四投票所の立会人になつてくれと賴まれ、直ちに之を承諾し、所要書類に調印したので、その書類は同町選挙管理委員会に提出せられ、右山田は右投票所の区域内の選挙権者でなかつたので、同投票所では投票立会人になる資格がないのに、右届出により、右投票所の投票立会人になつたものと誤信していた、ところが選挙長であつた西村久治郞が前記書類を発見し、山田丹十郞は、第四投票区では選挙権がないから、同投票所の投票立会人になることができない筈なので、直ちに、二川原候補の選挙事務所に電話を通じたが不在だつたので、更に同候補の自宅に電話を通じたが再び不在だつた、よつて止むなく同候補の妻に右理由を告げ、書類を返すから取りに來るように傳へ、右書類を取りに來た同人妻に、右書類を返還したのだつたが、西村は直接このことを山田に話さなかつたので、日時も切迫していた関係上遂に右事実を山田が知るより前に投票の日が來て了い、山田は、前記誤信に基き、右投票所に立会つたのであつて勿論右投票所の右投票管理者山田文次郞からこのことについて注意があつたが、其のまゝ同所に止まつたのであつて、特に非難すべき動機からではないこと、同人は同投票所では、主として、進駐軍から來た人の接待役のようにして之に應待していたことが認められるし、

又、証人山崎小作久、山田文次郞、中島米太郞、西村久治郞の各証言によれば、右選挙当日右投票は何等事故なく、平穏裡に行はれたことが認められるし、

証人中島米太郞、山内要作、西村久治郞、宮元市太郞、小山内多平、澤田新太郞、山口八郞、嘉瀨尚秀等の各証言によれば、右第四投票所の投票函は無事開票所であつた大鰐小学校の開票管理者のところまで送致せらた開票のときまで何等異常がなかつたことが認められる、

尤も証人山崎多作、山崎小佐久、山田丹十郞、幸山甚佐久、山田恒太郞、山田文次郞、山内要作、小山内多平、澤田新太郞等の各証言を綜合すれば、山田丹十郞は右投票所のあつた大鰐町大字高野新田の地区内に数十町歩の山林を所有し、その植林に当り同地区内の往民を多数使用したことがあるため同地区内では知人多く有力者であること、大鰐町は從前から町内有力者が二派に分れて対立し政爭甚だしく、本件町長選挙は、昭和二十二年四月五日同町長選挙が行はれた際、二川原節郞と松岡銀作とが立候補し、松岡が当選したが同人が辞職したために、その後任を定めるための選挙であつて、松岡派の候補として原告佐藤が立候補したのであつたこと、本件選挙において第二投票所では二川原派の主張から投票所で所定時間よりも早く午後四時に閉ぢたため、同年九月四日再選挙を施行したのであつたが、二川原派において買收行爲の嫌疑があつたため刑事々件の発生したこと、等を認めることができるけれども、これ等の事実の存在は少しも右認定の妨げとはならないし、いわんや進で何等か右選挙の結果に異動を生ずべき事故又は異常のあつたことの証拠にはならない、

(ヘ)前記大鰐町大字居土字高野新田幸山甚吉方の檢証の結果、証人山崎多作、山崎小佐久、中島米太郞、幸山甚佐久、幸山淸一、山田丹十郞、山田文次郞の各証言によれば、右第四投票所は大鰐町大字居土字高野新田訴外幸山甚吉方東南側十八疊間で設けられたのであつたが、その投票記載所は部屋の西南側障子と板戸に接してリンゴ箱三個を並べて机の代用として設けられ、その中央のものの兩側に破損せる扉風一枚つゝを立てて左右のものとの間に障壁を作り、この三個の投票記載所のやゝ南寄りの上部に電燈一個を垂れて点燈してあつたのであるから、採光は多少不充分であつたが、文字の読み書きができない程ではなかつたこと、投票立会人及び投票管理者等の座席は部屋の西北側に、リンゴ箱を並べて作り、西南から順次幸山淸一、山崎多作、幸山東八郞(投票管理者代理)山田文次郞、山崎小佐久、山田丹十郞の順に並び、右山田丹十郞の席から右投票記載所最右端のもの迄の距離は最も遠く、約十六尺、最も近い幸山淸一の席からは約六尺二寸あり右投票記載所の最左端のものの左側は障子を隔てゝ物置になつていたが、最右端のものの右側には立会人の坐席との間に何等の障壁がなかつた、しかし右投票記載所は投票者が西南の部下に向つて坐り立会人等の席を右斜後とする関係にあつたので、右側に障壁のあつた左端及び中央の投票記載所は勿論のこと、右端の記載所といえども、背後の立会人席から投票者の記載をのぞき見ることはできない状態であつて、右投票所における投票の秘密は十分に保てたことが認められるから、右投票所の設備が不完全なものであつたという原告の主張も採用できない。

右認定の通り右第四投票所の投票にも投票函の送致にも何等異常がないのであるから、右投票所においては先に認定した通り、選挙事務に関係のない山田丹十郞が投票立会人として投票所に入つたり、投票函の鍵の保管や投票函等の送致について違法の点があつたりしたとしても、他に何等か選挙の結果に異動を生ずる虞ある事故か生じたのでなければ、右違法があつたからとて直ちに本件選挙を無効となすべきではない。

原告は又前記の如き法令違反があれば反証しない限り一應選挙の結果に異動を生するような事項があつたと推定せらるべきであると主張するけれども、右認定の通り右違法にもかかわらず右選挙及び投票函に何等の事故も異常もなかつたことが認められるのであつて、原告の全立証によつても右の認定を動かすに足りない。

以上説明した通り原告等の本訴請求のうち本件選挙の無効を主張する部分は理由がないから右請求は之を認めることができない、

次に当選無効の点を判断すると、大鰐町選挙管理委員会において二川原候補の得票数を千七百七十一票と認めたこと、右得票中七十七票(檢乙第一乃至第七十七号)の無効票があることは本件当事者間に爭がない、原告は右の外尚百六十四票の無効投票(檢乙第七十八乃至二百四十一号)があると主張するのである。而して本件選挙の投票の檢証の結果によれば、原告が無効と主張する右投票の中には、

第一、(一)町長候補者の氏名欄に「ニカフラササキ」と記載したもの一票(檢乙第九十三号)、「二川エ」と記載したもの一票(同第百六十一号)があること、(二)同欄に「 」と記載したもの一票(同第百二十五号)、「 」と記載したもの一票(同第百二十八号)、(三)同欄に逆に「 」と、町会議員候補者の氏名欄に逆に「 」と記載したもの一票(同第二百二十九号)があることが認められるが、右のうち、(一)に掲げたものは、右町長候補者の中には、その氏名の中に「ニガ」及び「ラ」の文字又は「二川」の文字を含むものが他にないから右投票は二川原候補の得票と認むべきであるけれども「ササキ」「エ」と記載した部分は何れも他事記入に該当するし、(二)に掲げたものは何人を記載したのかを確認し難いし、(三)に掲げたものは町長候補者でないものの氏名を記載したものというべきであるから、以上合計六票は全部無効と認むべきである、又同檢証の結果によれば、

第二、(イ)町長候補者の氏名欄に「二川原〓郞」と記載したもの二票(同第百六十号第二百十七号)、「二川原」と記載したものの三票(同第百五十一号、第百五十二号、第百七十二号)以上五票、

(ロ)同欄に「ニガワラ」と記載したもの二票(同第八十三号、第百五十号)、「ニガハワ」と記載したもの二票(同第九十一号、第百二号)以上四票、

(ハ)同欄に「三川原〓郞」と記載したもの一票(同第百八十二号)、「仁川原」と記載したもの一票(同第百七十号)以上二票、

(ニ)同欄に「二川」と記載したもの九十二票(檢乙第七十八乃至八十号、第八十五乃至八十九号、第九十六乃至百一号、第百四号、第百五号、第百九乃至百十一号、第百十三号、第百十四号、第百十六号、第百十七号、第百二十三号、第百二十六号、第百二十七号、第百二十九乃至百三十一号、第百三十三号、第百三十七乃至百三十九号、第百四十一号、第百四十二号、第百四十五乃至百四十八号、第百五十三号乃至百五十九号、第百六十二乃至百六十四号、第百六十六乃至第百六十八号、第百七十三乃至百七十五号、第百七十八号、、第百八十号、第百八十一号、第百八十七号、第百八十九乃至百九十六号、第百九十八号、第二百乃至二百二号、第二百六号、第二百八乃至二百十一号、第二百十三号、第二百二十二号、第二百二十四乃至二百二十七号、第二百三十一乃至二百四十号)、

(ホ)同欄に「二川セツロ」と記載したもの一票(同第九十号)、「二川〓郞」と記載したもの二票(同第百六十九号、第二百四号)、「二川セチロ」と記載したもの一票(同第百八十三号)、「二川セ郞」と記載したもの一票(同第百八十八号)、「二川セツロー」と記載したもの一票(同第二百七号)以上六票、

(ヘ)同欄に「二川ラ」と記載したもの七票(同第八十一号、第八十二号、第九十二号、第百十八号、第百七十七号、第二百二十号、第二百四十一号)、「二川ラ淸郞」と記載したもの一票(同第二百二十一号)、「二川フ」と記載したもの二票(同第百三号、第百八号)、「二川ルラ」と記載したもの一票(同第百六号)、「二川一」と記載したもの一票(同第九十四号)、「二川二ノラ」と記載したもの一票(同第百四十号)、「二川ワ」と記載したもの一票(同第百六十五号)、「二川」と記載したもの一票(同第百七十一号)、「二川ハラ」と記載したもの一票(同第二百二十八号)、[二川ヲ」と記載したもの一票(同第百九十九号)以上十七票、

(ト)同欄に「ニガ」と記載したもの一票(同第八十四号)、「二ガラ」と記載したもの五票(同第百七号、第百四十九号、第百八十四号、第百九十七号、第二百三十号)、「二カラ」と記載したもの一票(同第二百五号)、「二カラセツロ」と記載したもの一票(同第百十二号)、「二ガワル」と記載したもの一票(同第二百二十三号)、「二ガフラ」と記載したもの一票(同第百三十四号)、「二ガ川」と記載したもの二票(同第百三十二号、第二百十四号)、「二ガ川ワ」と記載したもの一票(同第百八十五号)以上十三票、

(チ)同欄に「二カラ」「二川ワ」と二樣に並べて記載したもの一票(同第百七十六号)、

(リ)同欄に「二」と記載したもの一票(同第九十五号)、「二原 郞」と記載したもの一票(同第二百三号)、「二原川」と記載したもの一票(同第二百十九号)以上三票。

(ヌ)同欄に「二ワラ」と記載したもの一票(同第二百十八号)、「二ワ」と記載したもの一票(同第百十九号)以上二票、

(ル)同欄に「二」とのみ記載したもの十二票(同第百十五号、第百二十号、第百二十一号、第百二十四号、第百三十五号、第百三十六号、第百四十三号、第百四十四号、第百八十六号、第二百十二号、第二百十五号、第二百十六号)、「二一川セツロ」と記載したもの一票(同第百二十二号)以上十三票、

があることが認められる、而して右投票の中には勿論氏名の記載として不完全なものがあるのではあるが何れも二川原節郞候補の氏名又はその一部或はその読音の一部を記載していると認められるのであつて、その記載自体により同候補を選挙したものとして確認し、他の候補である佐藤勝永又は笹留男の得票と区別し得るから、之を右二川原候補の有効得票と認むべきである、尤も(イ)の中には、「二川原」の「原」字の下に抹消があるもの一票(檢乙第百五十一号)、「二川原」と書いた左側に一度「サ、キ]と書いた後之を抹消したもの一票(同第百五十二号)、「二川原」の「原」字が汚損したもの一票(同第百七十二号)、町会議員候補者の氏名欄に「カシタ」と記載したもの一票(同第百八十七号)、同欄に「ササギ」と書きその上部に抹消があるもの一票(同第二百三号)、(ロ)の中には、「二ガハラ」の「ラ」字の右側に汚損があるもの一票(同第八十三号)、「二ガハラ」の左側に抹消があるもの一票(同第九十一号)、「二ガワラ」の「ラ」字左側に抹消があるもの一票(同第百五十号)、(ニ)の中には、町会議員候補者氏名欄に不明文字を記載したもの三票(同第七十八号、第八十号、第八十一号)、同欄に抹消のあるもの一票(同第百二十六号)、「二川」の上に「竹」字を書いて抹消したもの一票(同第九十九号)、「二川」の下に不明文字を記載したもの一票(同第百三十七号)、「二」と「川」字の間に「川」と書いて抹消したもの一票(同第百九十六号)、(ホ)の中には、「二川セツロー」の「川」字の下に抹消のあるもの一票(同第二百七号)、(へ)の中には、「二川」の下に「原」と書いたものが一票(同第百七十一号)、「二川ラ」の「川」字の右側に「――」を書いたもの一票(同第二百四十一号)、(卜)の中には、「二が川ワ」の「二」と[ガ」字の間に抹消があるもの一票(同第百八十五号)、「二が川」の上、「ガ」と「川」字の間等に抹消、汚損のあるもの一票(同第二百十四号)が各存在し、又、(チ)の一票は「二カラ」「二川ワ」と竝べて書いてある、

しかしながら、單純たる汚損、書損、誤字、訂正又に正確を期するために更に同一候補者を意味する氏名を書き加へ、その他特に有意の記載と認められない場合には、地方時治法第四十一條第一項第二号の他事を記載したものに該当しないと解すべきであるから以上列挙の投票はいづれも二川原候補の有効得票と解すべきであるし又町会議員候補者の氏名欄に「カシタ」と記載したもの一票の「カシタ」は「カシタロ」即粕太郞の意であつて「〇」は「ロ」字と解すべく他事記入と認むべきではなく又(ロ)の中には、逆に「 」と記載したもの一票(檢乙第百二号)、(ホ)の中には「二川セ郞」と投票用紙の裏面に記載したもの一票(同第百八十八号)、あるのであるが、候補者の氏名を逆に記載し又は投票用紙の裏面にその氏名を記載した投票を無効とする旨の法規がないから、右各投票は二川原候補の有効得票と解すべきである。

以上認定したところによつて前記二川原候補の得票数を計算すると、前記本件選挙の結果選挙会で同候補者の得票数と決定した、千七百七十一票の中、七十七票の無効投票があつたことは先に説明した通り被告の認めるところであるし、殘りの得票中第一の一乃至三の六票が無効であることは右説明の通りであるから、右千七百七十一票の中から右無効と認められる七十七票と六票合計八十三票を控除すると右二川原候補の有効得票は千六百八十八票となることが計算上明かである。

原告等は前記選挙会において原告佐藤の得票数と決定した千七百二十六票の中、被告が訴願の裁決で無効と判定した八十五票(檢甲第一乃至八十五号)の中には三十一票(檢甲第五十五乃至八十五号)の有効投票が含まれていると主張し、右八十五票から有効と主張する三十一票を控除した殘五十四票の無効なことは之を認めているのであるから、原告等が有効なりと主張する右三十一票全部が仮に原告の主張する通り有効であると仮定しても、尚原告佐藤の得票は右千七百二十六票から右五十四票を控除した殘千六百七十二票となり、前記二川原候補の有効得票千六百八十八票より小数となり、本件選挙の結果に異動を生じない結論になつて、右原告等の有効と主張する原告の佐藤の得票三十一票の有効であるか否かは之を判断するまでもなく、原告等の主張の理由のないことが判断できるから、右三十一票の投票の有効であるか否かの判断は之を省略し、原告等の当選無効の請求も亦之を棄却すべきである。

仍て訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十三條第一項本文を適用し主文の通り判決する次第である、

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